2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

Antonio's Song

男が取材用にと渡されたカメラは、上役の引き出しに無造作に仕舞われていたニコンのF1だった。その会社がスポンサーになっているコンサートの取材に行ってこいと、突然に言い渡されて新宿まで来ていた。カメラなどそれまでいじった事がなかった男は、新宿で…

Fry me to the moon

男はその日何度目かの「儀式」をしていた。傍目からはただ手を洗っているだけの「それ」は、男にとっての日常の、やめる事の出来ないものだった。 まず三を三回数える。123、123、・・手はまだきれいになっていない。次にまた三を三回。男は手を洗い続…

In the mood・・明け方に

カーテンが半分ほど開け放してあり、男は目を覚ました。薄日が差しているところをみるともう夜は明けたのだろうか。カーテンがそよそよと風にひらめいている。 男は不思議な感覚をおぼえた。それで目が覚めたのかもしれない。 あたりに音はなかった。まった…

診察-2

その後はどうですか・・? ちょうど一ヶ月後に男は二度目の面会に行っていた。その担当医は相変わらず分厚い眼鏡の奥に濁ったような眼をたたえて、こちらを見ていた。 やはり、頭の中にもう一人自分がいて、自分が自分に囁きかけてくるような。 具体的には・…

STORMY WEATHER ・中華街で

台風が来るらしい。まだ、電車は止まらないだろうがそのまま直帰して良いといわれて、関内で電車を降りた。方向はわかっているつもりでも、これから出向くところには気が重い。数年前に思い出したくないことがあった辺りだからだ。そのせいでもないだろうが…

グリーンドルヒィン通りにて・衣笠

16号線を延々と走り、衣笠辺りに来ると突然海が見える。軍港のある町はすぐその先だ。男はその先、平成町に用事があった。とりたてて急ぐ事は無かった。その要件も男が勝手に作ったものだった。あたりは夏のちかいことを知らせる陽光で満ちていた。しかし男…

夜と昼と・京急線

働くべき場所を失う事は(当然の事ながら)有り余る時間と引き換えにして、男から仕事を奪う事を意味した。その頃の男の日課は、京急線を品川から終着の三崎口まで乗り続けている事になった。男がかつてずっとしてみたかった「小さな旅」がそれだった。終点…

星屑・センター駅

停車のアナウンスも無く、静かにドアは開いた。私鉄を乗り継ぎその駅まで来ながら、男は一瞬降りるのをためらった。子供を連れた若い夫婦、女子高生の一団、老齢のご婦人などが次々と降りて、男が最後になった。乗り込んでくるサングラスにひげを生やした男…

診察-1

男の視界距離は前方約3メートルまで。角度は90度にも満たない約75度。身長は175㎝あったが、小学生のように背を丸めて歩く。 で、どういったことが・・?つまり夜眠れない。食欲などもない。それは、いつから・・?気がついたのは約半年前です。どんなこと…

終末の迷路

いや、「終末」などというコトバを簡単に使うものではない。しかし、当時、その男にとっては、その病院の通路は迷路のように思えたし、また、ある意味、その男にとってそれは終末のように思えた時期の始りでもあった。市立病院の、申し訳ばかりに掲げられた…

2007年夏

マウイ島の山から吹き下ろしてくる風は予想外に寒く、男は小さく震えた。大粒の雨も風とともに海岸まで降り注ぎ、もう夜中だというのにまだ海に入っている若者たちの気が知れなかった。男は海岸沿いに建つホテルに戻り、アーケードのABCストアで買ったのり巻…

水陸両用車

東京都とC県を境にする橋をよく車で通る。河川名は江戸川。この河原ではよく地元の消防団の方達の訓練がみられる。 それはかなり以前の事、その河原には一台のジープのような車両がとまっていたが、それがするすると河原を川岸の方へ進んだかと思うとそのま…

幼児の記憶

人は生まれてからどのくらいのところまでで記憶が留まるのだろうか。世界はまだ現実と天上界とが未分化で、オトナたちの上には天使たちが飛び交っているような幼児期の記憶は、やはり留めておけないようになっているのだろうか?その男は、暑い夏の日に金盥…

北鎌倉・切通し

男は瞬間的に戸惑って足が止まった。正月の参拝客が溢れていることを見越して、二人はどちらからともなく申し合わせて一つ手前の駅で降りた。毎年のこの時期、東京駅で待ち合わせをしては初詣に行くことがここ何年か続いている二人の習わしだった。かといっ…

しゅうまつのめいろ

土よう日のじゅぎょうはごぜん中でおわる。ぼくたちはしゅうだんげこうだ。ぼくのすむアサヒ町三丁目にかえる班はみんなで5人。でもめったにおんなの子とはかえらない。だからぼくたちはいっつも3人になる。そして土よう日のかえり道はいつもの国どうじゃな…

MJ号の末路

カール・ドライヤー監督の『奇跡』を観るために男はそのビルに入っていった。東京でも有数の繁華街を抜けてビジネス街になろうかとする辺り、陽のあたらない薄暗く細長い建物がフィルムセンターと呼ばれるビルだった。狭いエレベータを嫌って男はいつも階段…

1967年初夏

「あれは絶対に夢なんかじゃない」少年は幾度もそう思う。思いつづける。あれは三鷹の団地に住んでいた小学校3年生のときだった。妙に寝苦しく、薄い布団をはいで起き上がった少年に聴こえてきたのは、奇妙な金属製の物体が夜空に浮かんでいるときに発する…

無線機

正太郎少年の操る高度な技術の結晶の無線操縦システムは、その電波到達能力においても比類のないものだった。ニホンのロボット工学の到達点としてのその鋼鉄製の巨大な身体を自由自在に操れるのは正太郎少年だけと誰もが思っていたのだ。しかし、盲点はそこ…

流星号、応答せよ!

自らの意志を持ち、その形をうねらすように変形させながら、「ウィ、ウイン」と金属音を残してその流線型の車(実は宇宙船なのだ!)は、無線機で指令を出す少年戦士のもとへと馳せ参じる。世界は悪とその悪と戦う正義の少年とに見事に二分割されていた。も…

スピロペントの夏

2週間咳が続いた男は、市販の咳止め薬を飲み続けていた。夜は一本のタオルが救いだった。ひとたび咳が出始めると会話も出来ない数十分が続く。それでもさほど気に留めていなかった男は、昼休みにただの気休めのつもりで市立の総合病院に向かった。書きかけの…

ナイト・フライト

「あなたは何になれるのか?」と無邪気な声で(実は人生の)大問題を出題した少女も、いま会えたとしたら乾物屋の古女将になっているだろうか・・ 去年の暮れに、北九州空港からのJAL最終便羽田行き20:30発にすべり込むようにして乗り込み、持参した文庫本を…

F君との午後

「たとえばここにコップがあるよね?」と、F君は穏やかに言った。「このコップに水を満たすとしよう。するといままで空だったコップは今は水で満たされていることになるよね」F君は微笑んだ。 「そこで、きみがこのコップだったとして、きみは世界は水である…

さらに10年前

少年は当時小学生の低学年だった。都電通りを渡り、賑やかな商店街が終わって都立の病院の駐輪場がある裏場が、少年の通う小学校の入り口だった。当時から内向的だったその少年は、なぜか女の子の友達しかいなかったが、家で乾物屋を営むその少女が、つかつ…

とうきょう、という響き

当時高校生だった少年は、黄色い電車*1に乗り継ぎ、千葉からやっと東京タワーに来ていた。そこで、いかにも「とうきょう」の(つまり都会の)匂いのする年上の女性が、思わず呟いた「東京ってきれい」というコトバに遭遇する。それを聞いた瞬間に少年はその…

世界を記述する?

世界を定義するという事は、やはり、世界を記述するという事なのでしょう・・ ということは、やはり、コトバ。 以前読んだ『人はなぜ生きるのか?今すぐ答えよ!』(ちょっとタイトル不正確かも)の結論らしき結論(答えは書いてなかったと記憶する)は、や…

海の向こうで・・

「世界の定義」などと分かったような事を言ってみたと思ったら、海の向こうでは戦争が本格化のニュース。それなのに、今日もここニホンでは高速道路で車は普通に走れるし、JRの電車もダイヤ通りに運行。冬空には星が静かに瞬く。 「世の中」とは「世界」のこ…

もう1月4日

一年のうちで一番自分に時間が使えるはずの四日間。 自分の「知りたい事」の書き始めだけは出来たかもしれない。 しかし、今読み返してみてもつくずく曖昧な物言いだねぇ。 「世の中」とはいったいなにをさしているんだか?それさえ定義できてないと、この「…

最近知りたいと思っている事

この「世の中」が、何で動いているのか?なにでうごかされているのか、あるいはいないのか。 最近それが気になって仕方が無い。 そもそもいったい、この設問?の「なに」とは、モノなんだろうか?それとも、人物?あるいはなにか実体のないもの? ここにこれ…