さらに10年前

少年は当時小学生の低学年だった。都電通りを渡り、賑やかな商店街が終わって都立の病院の駐輪場がある裏場が、少年の通う小学校の入り口だった。当時から内向的だったその少年は、なぜか女の子の友達しかいなかったが、家で乾物屋を営むその少女が、つかつかとこちらにきたと思うと、とつぜん履いていたスカートを翻し、くるくるくると少年の前で舞ってみせた。スカートはぐるぐる廻りそのスカートの絵柄がみごとな幾何学模様を描いた。
「ねえ、ワタシはおサラよ!みて、もっと見て。ワタシはお皿」いたずらっぽく微笑みを浮かべたその同級生は、さらに少年に追い打ちをかけるようにこう囁いた・・「ねぇ、あなたは何なの?いったい、何になれるの?」
その少女は昼休みの眩い陽光を背に受けながら、いつまでもいつまでも廻っていた。

それからというもの、少年は常に自問する。
ーーーいったいぼくはナニになれるんだろう?
ーーーいったいぼくはナニになれるんだっけ?