2009-01-01から1年間の記事一覧

止まり木

スペイン語のメニューをみて上の行から順番に頼むことにする。丸の内に近い映画館のはす向かいにひっそりと看板を掲げていた居酒屋。店の半分はビールを立ち飲みをする外国人で占められていたが壁際にうまく空席があった。近況でもなく家族のことでもなくふ…

「男と女」

「結局紅葉を見るのじゃなくて人を見にきたようなものね」と彼女は言う。なぜか地下鉄で夕暮れの銀座まできたのだった。帰りの時間は大丈夫なのか先ほどから尋ねるのはこっちの役目になっていた。彼女はその都度何も答えずにいる。街灯に灯がともり先ほどの…

珈琲屋

中央線の架線故障でダイヤは大幅に乱れているらしい。暗くなる前に帰りたい彼女との奥多摩行きは諦めるしかなかった。自然と歩く先は以前(それこそ何時だったかは覚えていられないくらいの以前だが)にふたりで待ち合わせにつかった「珈琲屋」に向けられた…

向こうから駈けてきた

都内でも有数の大きなターミナルのあるその駅は週末の約束をした男女と家族連れや様々な年齢構成のグループでごった返していた。11月に入ったというのに上着を着ていると汗ばむような陽気の昼過ぎに約束の時間を大幅に遅れてその雑踏の中から突然彼女は現れ…

大統領はもうニホンにいない

散歩をするのは好きだ。昼頃ようやくベッドから起きだし、朝昼兼帯の食事をし、散歩に出るのはきまって午後の遅い時間。その日課はほぼ守られ、この空白の時間を埋める唯一の持続性のある行為だったと思う。夜にずれ込むこともあり、それはそれで悪くなかっ…

11月7日

長い夢を見ていたようだった。百あまりの夜に百あまりの朝。「人生に意味はない。あるとすればそれば無意味という意味しかない」と言い、あるいは言い放っておきたかった。砂で造った城が寄せる波に簡単にさらわれるくらいの脆さで、そのような「虚勢」は崩…

あきらめるのはまだはやい

そうですね。本当にそう思って(思う様にして)毎日を過ごしています。実は、私は「時間」について考え初めてからというもの、「人生に意味などない。(あるとしたらそれは人生の意味のなさを知った上で、その意味を探すところにこそある)」という考えにと…

時間が世界に・・

あるいは、世界とは時間のことだという思いで、ここまでふらふら書いてきました。しかし、二次元から三次元に展開するときに時間がたちあがるといったり、無(の近似値)から時間は去来するとか、「流れる」といいながら方向は無いとか、どうしても、これと…

生きている時間

ついこの前のことなのですが、知人の娘さんの、初めてのお子さんの出産を聞きました。ふつうはそれで「おめでとう」とのことだったのですが、つい先日、そのお子さんの死亡の知らせを聞いてしまいました。生後7ヶ月程のことだったようです。かける言葉もあ…

無のつぎに来るもの

無と無限は実は同じものなのではないかと思います。でもあえて、無についてもう一度考えます。 考えますと言ってはみたものの、「無限については考えるのをやめます」とつい今しがた言ったばかりです。無と無限について同じだと言うのならば、無についても考…

無と無限

「エーテル」とは、またちょっと時代がかった言葉でしたが、時間というものを考えるときに、なにか、そこに介在するものを想像してみたくなるのでした。 しかし、あらためて、なぜ私たちは時間のことを考えたくなるのでしょうか?それは、やはり、有限な存在…

きのうの「まとめ」への反論(あるいはまとめのまとめ)

1)時間は方向を持たない。といっておきながら、2)時間は折り畳まれる。 というのは、ちょっと考えるとおかしい気がします。方向性が無いものが、紐みたいに折り畳むことなどできるのか、と。しかし、ここでいう「方向性」とは、線分のようなものでは(一…

時間は宇宙のどこまであるのか?ー無限

時間というものを考えるときに、つい、星空を見上げてしまいます。ひとはなぜもっと夜、空を見あげないのか?と、不思議に思う時があります。夜空を眺めるだけで、光る星々の行く末に思いを馳せるだけで、満たされた、贅沢な気持ちになれませんか? 時間を考…

折りたたみの宇宙

時間が折りたたみ出来るのならば、それは宇宙も折りたためる事にならないか? 折りたたみの途中で、うまく重なりが出来なかったりするところが、時空のずれとなるのかな? ワタシのような手の不器用な宇宙人だって、いそうだもの・・

次元−折りたたみ?

われながら、下手な絵を・・しかし、次元のことは、少し重要かもしれないですね。三次元「空間」というくらいで、私たちはフツー三次元の空間に生息しているということになっていますよね?。 この三次元は、二次元の次段階だから、フツーは1次元+2次元プ…

無−次元

「無」というものを、思い切って、がんばって頑張って、想像してみる。そこからスタートして(でも、無に、位置座標があるわけないから、「そこ」というのもおかしいのかも?)一次元から三次元までを書いてみる。いま問題にしている時間はこれのどこにある…

存在ー無

昨日、つい『「わたし」という現象』などという言葉使いをしてしまったのですが、「わたし」とは何か?などを言いはじめると、それは、どうも、違う方へ行ってしまいそうな気がするのです。(あくまでも、気がするだけという曖昧な論拠ですが)それは、時間…

時間の中の存在

それが、「わたし」という現象なのだろうか?少し考えてみると、「ワタシ」と「時間」と「世界」は、同じ物、同じ事象をいう別の言葉だけのような気がしてくる。それでは、ワタシは どこへ行けばいいのだろうか?とにかく生きている限りは進みたい。それは亀…

診察-5

その心療クリニックに行きはじめてから一年が経とうとしていた。医師の眼も眼鏡のむこうに見えるようになっていた。男には希望はまだ無かったが、そのかわり絶望も無かった。いつまたあの頃に捕われた不安、隔絶感、朝の絶望に見舞われるかはわからない。し…

久我山・M'

「最近なんか変なんだ」ぽつりぽつりと話しはじめる。ぼくはときどき自分の事を言語障害かと、半分本気で思うことがある。なに、なにかあったの?ーー以前からへんじゃない、とまぜっかえされるかと思っていたぼくは少しほっとする。近くの喫茶店に入った。…

糀谷・Sさん

トウキョウにもまだこんなところがあるんだね。空港まで行く各駅停車のモノレールを降りて、おもわず彼女に呟いた。そこは下町そのものの風情を醸し出している町だった。駅まで迎えにくると彼女がいった意味が分かる。はじめての訪問者は道に迷うしかないだ…

江古田・Nさん

西武線はきれいな電車だ。乗るたびにいつもそう思う。しかしNさんのアパートは、カメラ機材と本とキネマ旬報に8ミリ映写機で散らかり、いつ行っても座るところが無い。NさんはN大の芸術学部に行っているはずだが、いつも部屋にいた。今日も8ミリを見せても…

志村三丁目・F君

「このコップの水は・・」とF君は、陽が当たらないアパートの一室でココアを練りながら続ける。「世界の一番簡単なモデルなんだね」コタツに入りながらぼくはうとうとし始めた。コタツの上には事実、水がいっぱいに入ったコップが置かれている。水は静かにな…

診察-4

ゴールはあるのだろうか?それが男にとっての一番の気がかりだった。今という通過点をいったい幾つ過ぎればそのゴールにはたどり着けるというのか。いや、そもそもゴールなどがあるのだろうか?・・とてつもないところに来てしまったのかもしれないと男は恐…

Goodbye

アンダーグラウンド「蠍座」の帰りにはコマ劇場裏のビルの地下、「木馬」に行くのが決まりのコースだった。団体客の人ごみをかき分けるようにして一歩裏の路地に入り、ひっそりとした地下に通じる階段をくだると、スポットライトにあてられたガラスケースに…

Knock Who's There

「時間」が「ある」のは、男が存在しているときに限っての話しなのか、男がそこに居なくても(もう存在していなくても)「時間」は「ある」といえるのか? 男はバーでウイスキーの酔いに任せてそんなことを漠然と考える。ぼんやりと、その「時間」の意味が分…

Temma Harbour

横浜駅の東口から馬車道を通り、レンガ作りの倉庫を横目に見ながら伊勢佐木町へまわったところに、取り残されたようにその建物は建っている。港町特有の汐の匂いとともに錆びれた鉄の扉を開けると、そのバーは開店したばかりのようだった。慇懃さと親しみの…

Those Were The Days

1950年にウェールズで彼女は生まれた。中央から分けた長いブロンドの髪に深い瞳と形の良いすらっとした脚、憂いを含んだような仕草は本国でも米国でもヒットチャートを急上昇させた。 大阪の万国博覧会に合わせて来日した彼女のコンサートの様子を映すTVの前…

診察-3

相変わらず迷路のような廊下を歩き、やっとその部屋をみつけて中に入った時、診療待ちの人の多さに驚いた。どうみてもまだ10代の少女から初老の主婦、太った中年男に20代後半らしいOLまで、みな一斉にこちらを見ては一瞬で何事も無かったように眼を伏せる。…

My funny valentine

新宿のアンダーグラウンド蠍座はいつも満員だった。電話で呼び出された男はその入り口で待っているつもりだったが、つぎつぎと吸い込まれるように地下に入っていく観客を見送っているうちに、約束よりも映画の方が気になって中に入ってしまう。名前は覚えて…