グリーンドルヒィン通りにて・衣笠

16号線を延々と走り、衣笠辺りに来ると突然海が見える。軍港のある町はすぐその先だ。男はその先、平成町に用事があった。とりたてて急ぐ事は無かった。その要件も男が勝手に作ったものだった。あたりは夏のちかいことを知らせる陽光で満ちていた。しかし男には季節を感じ取る感覚も薄れてきている。T字路を右に曲がると、3車線道路にでた。その「陽のあたる大通り」には単につまらない名前を示す標識がついていた。おそらく時の政治家が幅を利かせてつけたのだろう。男は勝手にその大通りを違う名前でよんでいた。

瞬時、何かが光ったように思えた。

それはもの凄いスピードで彼方の海上を北西から南東へと横切っていく。男にはそれが「何か」がすぐに分かり、あわててその考えを頭の中で否定した。だれも見ちゃいない。だれも見ようともしない。いまの生活が大事ならば、人は誰も、その事を信じようとはしない。それを男は遥か以前に学んでいた。あわててつけた車のラジオも何事も無いように、たわいない歌謡曲を流していた。

京急線の「旅」もそろそろ終わりかもしれない。男はぼんやりとそんなことを考える。光り輝く「それ」は、とうに彼方に消え去っていた。